環境省の「再エネ導入の取組方針」によると、2030年度までに国・地方公共団体が保有する約50%の建築物屋根に太陽光発電を導入することを目指すとあります。これにより、民間企業においても自家消費型太陽光発電などの導入が推奨されています。
今回は、自家消費型太陽光発電の概要や、中小企業が太陽光発電を導入するメリット・デメリットをご紹介いたします。導入コストを抑える方法についても合わせてご紹介しますので参考にしてみてください。
自家消費型太陽光発電とは?
画像引用元:自家消費型太陽光発電
自家消費型太陽光発電とは、太陽光発電で作った電気を電力会社に売らずに、工場や事業所、店舗などの自社設備で使用するシステムです。導入することにより、電気代やCO2を削減できるうえ、災害時の電源確保が可能となります。
自家消費型太陽光発電の種類
自家消費型太陽光発電には、「余剰売電」と「全量自家消費」の2種類があります。
余剰売電 | 全量自家消費 | |
主な違い | 太陽光発電でつくったすべての電気を自社施設で使いきれない場合、電力会社に売電する方式。 | 太陽光発電でつくったすべての電気を自社で消費する方式。 |
こんな人におすすめ | ・太陽光発電で発電した電気を全て使いきれない企業や事業者・電気量料金単価のほうが売電単価よりも安いエリアの企業や事業者 | ・太陽光発電で発電した電気を全て使いきれるだけの電力消費量がある企業や事業者・電気量料金単価のほうが売電単価よりも高いエリアの企業や事業者 |
「余剰売電」は、電気使用量が下がる休業日に発電した電力を売電するケースが想定されます。売電量に応じた売電収入を得ることができます。
「全量自家消費」は、売電収入を得ることはできませんが電気代の削減や、再生可能エネルギーの使用比率を高めることで環境への取り組みとして企業が評価されるといったメリットが期待できます。
自家消費型太陽光発電の導入コスト
経済産業省によると、2022年の自家消費型太陽光発電(産業用)の設置費用は1kWあたり25.9万円となっており、年度によって異なりますが1kW当たり20万〜30万円程度が目安と言われています。
※導入コストはあくまでも目安です。設置規模や施工会社などによって異なります。施工会社によっては設置規模により割引を受けることが可能です。
自家消費型太陽光発電の導入コスト内訳 | 1kWあたりの導入コスト |
太陽光パネル | 8.4万円 |
パワーコンディショナー(電流変換機器) | 1.9万円 |
架台(パネルを固定するための台) | 3.6万円 |
設置工事 | 10.0~12.0万円 |
設計費 | 0.2万円 |
保険 | 0.4〜0.9万円 |
1kWあたりの導入コスト合計 | 24.5〜27万円 |
参照元:企業による太陽光発電の設置費用はどれくらい?内訳やランニングコストを解説
自家消費型太陽光発電を導入する際は、太陽光パネルのほか、電流変換器や太陽光パネルを固定するための架台、工事費や設計費も導入コストとして考慮しておく必要があります。
また、災害による太陽光発電システムの倒壊に備えて保険へ加入するのが一般的ですので保険料も含めて見積もっておきましょう。
自家消費型太陽光発電を導入する5つのメリット
1:電気料金を削減できる
画像引用元:太陽光発電の自家消費、電気代削減とCO2削減の一石二鳥を狙う企業が増えている
自家消費型太陽光発電 を導入することで電力会社から電力を購入する機会が減るため、「電気料金」や電気料金に含まれる「基本料金」を削減することが可能です。
年間500,000kWhの電気を使用している工場(5,000㎡)の場合、電気料金のコスト削減効果は以下の通りです。
導入前※1 | 導入後※2 | コスト削減効果 | |
年間電気料金 | 13,429680円 | 9,388,170円 | 30%削減 |
使用料消費税 | 825,000円 | 420,849円 | 49%削減 |
※1)高圧受電契約、茨城県(東京電力エリア)
※2)導入設備容量/DC386.24(パネル1136枚)AC233.1kw、1日9時間245日稼働、年間発電量456,296kWhの自家消費型太陽光発電の場合
また、電気の「基本料金」は、1日の中で最も使用電力が多かった30分間の最大値(デマンド)で決定されますが、自家消費型太陽光発電を導入することで、使用電力の最大値を抑えることができ電気代削減に繋がります。
2:災害による停電の時も電力が使用できる
内閣府の調査によると、過去の災害で重要な業務が停止した理由に「停電」が最も多く上げられています。
自家消費型太陽光発電を設置することで、電力会社の電力から太陽光の自立発電システムに手動で切り替えることができ、災害などで停電した場合でも電力を使用することが可能です。
ガソリン式発電機や小型バッテリーなどの非常用電源は大量の燃料やバッテリーが必要になるケースもあり長期間使い続けることは難しくなりますが、自家消費型太陽光発電の場合は晴れていれば電力を使い続けることができます。
3:中小企業の税制優遇が期待できる
自家消費型太陽光発電を導入することで、即時償却や税額控除などの優遇税制を受けられる場合があります。
主な税制優遇制度は以下の通りです。
税制優遇措置 | 内容 | 対象 |
中小企業経営強化税制 | 設備費用の税額を最大10%控除。または、設備投資を行った初年度に「100%」経費として計上できる即時償却。 | ・「自家消費率50%以上」の太陽光発電が対象。・資本金が1億円未満、従業員数が1,000人未満の中小企業が対象。 |
中小企業投資促進税制 | 設備投資を行った初年度に「30%」経費として計上できる特別償却。または、資本金3000万円以下の場合は設備費用の税額を7%控除。 | ・「自家消費率50%未満」の太陽光発電が対象。・資本金が1億円未満、従業員数が1,000人未満の中小企業が対象。 |
生産性向上特別措置法 | 設備費用の合計が300万円以上の太陽光発電を導入の場合、最大3年間の固定資産税がゼロまたは1/2に軽減。 | ・機械装置、測定工具及び検査工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエア、事業用家屋、構築物が対象。・資本金が1億円未満、従業員数が1,000人未満の中小企業が対象。 |
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制 | 特別償却50%。または、税額控除5〜10%。 | ・機械装置、器具備品、建物附属設備、構築物が対象。 |
税制優遇制度によって対象や控除税額が異なります。各種制度の条件を考慮し自社に最適な税制優遇制度を活用しましょう。
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4:企業の環境活動としてアピールできる
自家消費型太陽光発電を導入することでCO2削減が期待できるため、自社の環境活動として公表することができます。
環境活動への取り組みは、株主や関連企業の経営者、従業員、顧客や取引先などのステークホルダーに良い印象を与えやすく、信頼感を高めることができます。
また、企業を取り巻く様々なステークホルダーが環境問題への取り組みを含めて企業を評価しようとする動きもあることから、自家消費型太陽光発電による環境への取り組みはイメージアップにつながり既存の取引先や顧客との関係性向上が期待できます。
5:余剰売電型の場合、余った電気を売電できる
太陽光発電でつくったすべての電気を自社施設で使いきれない場合、電力会社に余った電気を売電できる余剰売電型の自家消費型太陽光発電を導入することで収入を得ることができます。
区分 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 売電期間 | |
売電価格 | 10kW未満 | 21円/kWh | 19円/kWh | 17円/kWh | 10年間 |
10kW以上50kW未満 | 13円/kWh | 12円/kWh | 11円/kWh | 20年間 | |
50kW以上250kW未満 | 12円/kWh | 11円/kWh | 10円/kWh | 20年間 |
引用元:太陽光発電のメリット・デメリットを わかりやすく解説
余剰売電型であれば、発電した電力の自家消費による電気料金の削減ができるうえ、余剰売電による「売電収入」を毎月得られるため、太陽光発電で発電した電気を全て使いきれない企業や事業者におすすめです。
自家消費型太陽光発電を導入するデメリット
1:導入コストが高い
節電効果が期待できる自家消費型太陽光発電ですが、100kw設置した場合の費用は1,200〜2,000万円が相場とも言われ多額の導入コストがかかります。
また、自家消費型太陽光発電と共に産業用太陽光発電向けの「蓄電池」を導入する場合は、1台あたり約60〜200万円程度必要となります。
導入コストを抑えるには、国や地方自治体の補助金制度を利用するか、初期費用が0円の「PPAモデル」を検討すると良いでしょう。
2:設置スペースが必要
産業用の自家消費型太陽光発電を設置する場合、工場のような広い面積の設置スペースが必要です。
建物の屋根や使っていない土地、駐車場などの広い面積が自社にない場合は、設置することができません。また、築年数が長期経過している建物の屋根には、法律によって設置できない可能性があります。
3:メンテナンス費用が発生する
自家消費型太陽光発電は、「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」の点検項目を満たしたメンテナンスが義務化されており、パワーコンデショナーの交換費用やパネルの清掃費用、定期点検費用などのメンテナンス費用がかかります。
経済産業省によると、自家消費型太陽光発電の運転維持費は、消費電力量により異なりますが1kWあたり年間5,300円〜7,500円と言われています。
また、同資料によると、100kWの太陽光発電の場合は1kWあたり4,800円となっており、年間維持費は48,000円となります。
メンテナンスを怠ると発電効率が悪く発電量が下がってしまう場合があるため、多額のメンテナンス費がかかることも留意しておきましょう。
4:夜間や悪天候では発電が行えない
画像引用元:太陽光発電は、曇りや雨の日は発電するのか?
自家消費型太陽光発電は、太陽光により電力を生み出す設備なため夜間は発電できません。
曇りや雨の日でも日射があれば発電しますが、発電量は、曇りでは晴天時の1/3〜1/10程度、雨天では1/5〜1/20程度になります。
不足分の電気は、電気事業者から購入しなければならない点も留意しておきましょう。
5:災害に備えるなら「蓄電池」も必要になる
自家消費型太陽光発電は作った電気を貯めておくことができないため、災害による停電が長期に渡った場合は電力を補うことができません。
災害時の停電に備える場合には、「蓄電池」を導入する必要があります。
産業用太陽光発電向けの「蓄電池」は、容量の少ない低価格帯でも1台あたり約60万円、性能の高いもので1台あたり約100万円〜200万円程度かかります。また、設置工事と電気工事で30万円前後必要になります。
余剰売電の自家消費型太陽光発電の場合は、自社施設で使用後に余った電気や休業日に発電した電力は売電に回すことができますが、全量自家消費型の太陽光発電を導入する場合や災害に備える場合には、「蓄電池」設備も検討しましょう。
自家消費型太陽光発電の導入費用を抑えるには?
ここまで自家消費型太陽光発電のメリットやデメリットをご紹介しましたが、1番のネックとなるのは導入費用の高さです。
導入費用を抑えるためには、以下の方法を検討すると良いでしょう。
- 国や地方自治体の補助金制度を利用する
- 初期費用が0円の「PPAモデル」を検討する
国や地方自治体の補助金制度を利用する
自家消費型太陽光発電の導入には国や地方自治体からの補助金を受けられる場合があり、導入費用を抑えることができます。主な補助金制度は以下の通りです。
補助金制度 | 概算要求予算 | 対象 |
脱炭素社会構築のための資源循環高度化設備導入促進事業 | 126億円 | 民間団体など |
PPA活用など再エネ価格低減等を通じた地域の再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業(一部 総務省・経済産業省 連携事業) | 186億円 | 地方自治体、民間事業者など |
脱炭素社会の構築に向けたESGリース促進事業 | 16億円 | 民間事業者・団体 |
※各種補助金の申請には期限がありますので二次募集があるか確認しましょう。
補助金制度を申請する場合には、申請時に事業計画書などの各種書類作成が必要なうえ、審査を通った後も報告書などの提出が義務付けられています。また、補助金交付後も数年間は事業状況を報告する必要があります。
また、申請件数に条件がありますので公募方法によっては抽選や早い者勝ちになるなど、申請が通らない可能性もあります。
補助金申請のための準備に時間や人手を割けない場合は、自社の代わりに補助金申請をサポートしてくれるコンサルティング会社に依頼すると良いでしょう。
補助金申請や太陽光発電導入のイロハを熟知しているコンサルティング会社に依頼することにより申請が通りやすくなったり煩雑な準備を簡略化することができます。
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初期費用が0円の「PPAモデル」を検討する
画像引用元:太陽光発電のPPA事業とは?仕組みから最新の補助金情報や契約内容まで解説
「PPAモデル」とは、電力販売契約のことを言い、金融機関などが保有する自家消費型太陽光発電の設置場所として自社工場の屋上などを貸し出し、その太陽光発電が発電した電気を購入する制度です。
太陽光発電を第三所有者に置いてもらう代わりに、その電気を購入することで初期費用0円で設置することができるうえ、電力会社より電力を格安で買えるメリットもあります。
自家消費型太陽光発電の導入コストを抑えたい方は、PPA事業者に自社施設の屋根を貸しだす「PPAモデル」を検討してみると良いでしょう。
まとめ
今回は、自家消費型太陽光発電の概要や、中小企業が自家消費型太陽光発電を導入するメリット・デメリット、導入コストを抑える方法をご紹介しました。
自家消費型太陽光発電は電気代を大幅に削減できるうえ、CO2削減対策として環境への取り組みをアピールできます。
一方で多額の導入コストが必要になるため、コストを抑えるには国や地方自治体の補助金制度を利用すると良いでしょう。
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