資源エネルギー庁によると、2021年4月時点で日本を含む125カ国と1地域が2050年までの「カーボンニュートラル=脱炭素」実現を表明しています。日本においては脱炭素はこれからの企業経営に欠かせない環境問題への取り組みとなっており、大企業のみならず中小企業においても脱炭素の取り組みが迫られています。
今回は、脱炭素の概要や、中小企業が脱炭素に取り組むべき理由やメリット、具体的な取り組み方法、脱炭素に取り組む際のポイントをご紹介します。
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脱炭素とは?
画像引用元:トヨタ西東京カローラ
脱炭素とは、CO2などの温室効果ガスの排出量を“実質ゼロ”にすることを言い、別名「カーボンニュートラル」とも言われています。
“実質ゼロ”とはCO2などの温室効果ガス排出量を完全に無くすということではなく、排出量と森林などに吸収される量が同じであり、バランスが取れている状態のことを指します。
気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」では、「21世紀後半には温室効果ガス排出量と吸収量のバランスを取る」という長期目標が掲げられており、世界全体でCO2削減を目指す脱炭素が取り組まれています。
また、国連気候変動に関する「政府間パネル(IPCC)」では、地球の温度上昇を1.5℃以内に抑えるために、2050年までの脱炭素化が必要と報告されています。
中小企業が脱炭素に取り組むべき3つの理由
1:脱炭素に取り組まなければ、温対法や省エネ法の規制対象になる
日本政府は「カーボンニュートラル=脱炭素」を2050年までに目指すことを宣言し、2021年4月には、日本の2030年度の温室効果ガス削減目標を2013年度から46%削減することを宣言しました。
この目標を達成するために、一定以上の温室効果ガスを排出する企業に対し排出量を算定し国に報告することを義務付ける「地球温暖化対策推進法(温対法)」や、一定以上のエネルギー利用者に対し利用量を算定し国への報告や対策を義務付ける「省エネ法」などが実施されており、企業は事業活動で排出されるCO2の正確な把握が必要なうえ、省エネなどによるCO2排出量削減や再生可能エネルギー利用への転換などが必須と言われています。
また、脱炭素に取り組まない企業は今後、CO2排出量に応じて課税される炭素税※の負担が大きくなったり、省エネ法の規制対象になったりするリスクがあります。
※温対税…企業のCO2排出量に応じて課税する制度。石油・天然ガス・石炭などの化石燃料が主な対象。
2:脱炭素経営でない企業は取引先の損失に繋がる恐れがある
脱炭素経営とは、CO2などの温室効果ガスの排出量を“実質ゼロ”にする様々な取り組みを行う企業経営のことですが、脱炭素経営でない企業は今後、取引先や業界内での評価が下がる恐れがあります。
「ESG投資」と呼ばれるEnvironment(環境)/Social(社会)/Governance(企業統治)の3つの観点から企業の将来性や持続性などを分析・評価し投資先を選別する方法は、金融機関や投資家の間では一般的になりつつあり、大企業の間では「ESG投資」を視野に入れた脱炭素経営が取り組まれています。
中小企業も例外ではなく、脱炭素の環境対策に取り組むことが企業価値を測る重要な評価基準となっており、脱炭素経営でない企業は今後評価が下がり取引先を損失する可能性があると言えます。
3:脱炭素に取り組まなければ、消費者からの支持が得られなくなる
画像引用元:電通
2021年4月に電通により実施されたSDGsに関する生活者調査によると、「SDGs活動を知るとその企業のイメージが良くなる」と答えた人は55%以上となっています。
社会的に環境問題に対する関心が高まっている現在、SDGsにおける環境対策や脱炭素に取り組まない企業は、「環境や社会への影響を考慮しない企業」として消費者からの評価が下がる可能性があります。
また、株式会社日本総合研究所の学生を対象にした調査では「環境問題や社会課題に取り組んでいる企業で働く意欲があるか?」という質問に対して全体の47.2%が「そう思う」と回答しており、脱炭素に取り組まなければ優秀な人材の雇用を逃してしまうかもしれません。
中小企業が脱炭素に取り組む7つのメリット
1:電力コストが削減ができる
CO2排出量の削減効果があるCO2フリー電力への切り替えや、バイオマス発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを販売している新電力への切り替え、電力消費量が最も多い空調設備を省エネ効果があるものに切り替えなど、脱炭素の取り組みによって電力コストの削減が期待できます。
また、電球型蛍光灯を長寿命で熱放出も少ないLEDに切り替えることで34%もの消費電力削減になります。脱炭素に取り組むことで、CO2排出量を減らすだけでなく電力コストを大幅に抑えることが可能です。
2:企業イメージ向上により売上増加が期待できる
日本におけるSDGsという言葉の認知度は2021年時点で50%を超えている通り、環境問題への取り組みが社会的な注目を集めています。そのため、脱炭素の取り組みを発信することは顧客や消費者の間での企業イメージの向上が期待できます。
また、既に大企業のWebサイトには環境問題への取り組みが掲載されている通り、脱炭素への取り組みは企業価値に直結しつつあり、社会貢献への関心が高い企業との新規取引の増加や売り上げ増加などが期待できます。
3:ステークホルダーとの関係性向上が期待できる
脱炭素に取り組むことにより、株主・経営者・従業員・顧客・取引先などのステークホルダーに良い印象を与えやすく企業の信頼感を高めることができます。
企業を取り巻く様々なステークホルダーが環境問題への取り組みを含めて企業を評価しようとする動きもあることから、脱炭素への取り組みはイメージアップにつながり既存の取引先や顧客との関係性向上が期待できます。
4:税制優遇や低金利の融資が受けられる
上場企業の多くは、「ESG投資※」を受けやすくするために脱炭素に取り組んでいます。
※ESG投資…Environment(環境)/Social(社会)/Governance(企業統治)の3つの観点から、企業の将来性や持続性などを分析・評価し投資先を選別する方法のこと。
「ESG投資」の評価基準は、投資家や金融機関の間では一般的になりつつあり、非上場企業や中小企業の場合でも脱炭素の環境対策に取り組むことにより、低金利の融資が受けやすくなるというメリットがあります。
また、脱炭素の取り組みの中には、企業規模の大小に関わらず対象項目を満たしていれば税制優遇を受けられるケースもあります。
5:優秀な人材の確保が期待できる
先述した通り、株式会社日本総合研究所の学生を対象にした調査では学生の47.2%が「環境問題や社会課題に取り組んでいる企業で働く意欲がある」と回答しており、さらに、GoogleのCEOピチャイ氏は「若い世代を見ていると、彼らが環境を汚染しているような会社で働くことを選ぶとは思えない」と発言しています。
脱炭素に取り組むことで、「環境や社会への影響を配慮している企業」として優秀な人材の確保に有利に働く可能性があります。
6:従業員のモチベーション向上が期待できる
社員一丸となって脱炭素に取り組むことで、社会に貢献している意識が強くなりモチベーションを高める効果が期待できます。
画像引用元:電通
電通により実施されたSDGsに関する生活者調査によると、「積極的にSDGsに取り組む企業が今後どのようになっていくか?」という質問に対し「企業がSDGsに取り組むことで今後、会社への愛着が湧く」と答えた就業者は45.6%となっています。
脱炭素などの環境に対して取り組む姿勢を示すことで、社員の共感や信頼を獲得し、従業員のモチベーション向上が期待できます。
7:「J-クレジット」で収益を得られる
「J-クレジット制度」を利用することで、削減したCO2排出量を販売し収益化することができます。「J-クレジット制度」とは、CO2排出量削減や吸収量を国が“クレジット”として認証する制度です。「J-クレジット」を利用する場合は事前に事務局に申請しましょう。
中小企業が脱炭素に取り組む具体的な方法4選
1:現在使用している電力をCO2フリー電力へ切り替える
現在使っている電気をCO2排出量がゼロの「CO2フリープラン」に切り替えることで、CO2排出量を大幅に削減することができ、毎月の電気代コストも節約することができます。
切り替え手続きは書類手続きのみで1時程度で完了するうえ、特別な設備投資が必要ないため初期費用0円でCO2排出量削減を実施することができます。
「CO2フリープラン」のサービスは以下の通りです。
- 「自然でんき」(ソフトバンクでんき)
- 「コスモでんきグリーン」(コスモでんき)
- 「ECOプラン」(イデックスでんき)
- 「サニックステラセーバーS」(サニックスでんき)
- 「スマ電CO2ゼロ」(スマ電)
- 「CO2フリープラン」(まちエネ)
事業所や工場によって最適な電力プランが異なりますので、既存電力会社の契約内容や使用量を参考にしながら、「CO2フリープラン」電力を検討すると良いでしょう。
2:自家消費型太陽光発電システムを導入する
自家消費型太陽光発電システムとは、太陽光発電でつくった電気を工場や店舗などの自社設備で使用するシステムのことです。
自家消費型太陽光発電システムを導入することにより、電気料金やCO2排出量を削減できるだけでなく、税制優遇も適応されます。
▼自家消費型太陽光発電の導入シミュレーション
年間500,000kWhの電気を使用している工場(5,000㎡)を想定しています。
導入前※1 | 導入後※2 | コスト削減効果 | |
年間電気代 | 13,429680円 | 9,388,170円 | 30%削減 |
使用料消費税 | 825,000円 | 420,849円 | 49%削減 |
再エネ賦課金 | 1,490,000円 | 760,079円 | 49%削減 |
総コスト | 15,744,680円 | 10,569,098円 | 33%削減 |
※1)高圧受電契約、茨城県(東京電力エリア)
※2)導入設備容量/DC386.24(パネル1136枚)AC233.1kw、1日9時間245日稼働、年間発電量456,296kWhの自家消費型太陽光発電の場合
上表は、自家消費型太陽光発電を導入した場合の電気代シミュレーションですが、太陽光発電により電力会社の電気使用料金を削減することで、それに付随する消費税・再エネ賦課金も削減できることが分かります。
自家消費型太陽光発電システムの工事には、太陽光パネルの組み立てや電気工事などの工程があり、導入コストは1kWあたり10〜12万円が相場と言われています。
自家消費型太陽光発電システムを導入する際は、経済産業省や環境省の補助金制度や金融機関から支援を受けることで初期費用を抑えることができます。
エネルギー・温暖化対策に関する支援制度|補助金等ガイドブックはこちら>
3:空調設備の使い方を見直す
先にご紹介した方法は大幅にCO2削減ができますが、「大規模な設備投資が難しい」「手軽にできるCO2削減方法から始めたい」という方は、事業所や工場の空調設備の使い方について見直すと良いでしょう。
電力消費量が最も多い空調設備は、設定温度を1度上げるだけでも約10%の省エネ効果が見込めるうえ、フィルターの清掃をこまめに行うことで約4〜6%の省エネ効果があると言われています。
具体的な方法は以下の通りです。
- 空調の温度設定を環境省が推奨する温度(夏期28℃、冬期20℃)にする
- 2週間に1度を目安に空調設備のフィルターを掃除する
- 終業時刻の15~30分前に空調を停止する
- 省エネ効果がある空調設備に切り替える
空調設備以外にも電球型蛍光灯を省エネ効果があるLEDへ切り替えたり、エネルギー消費が少ない産業機器や車両を利用することもCO2削減に有効です。
4:J-クレジットを購入する
J-クレジットとは、省エネルギー機器の導入や森林経営などの取組によるCO2排出削減量や吸収量を、売買可能な“クレジット”として国が認証する制度です。
自社でのCO2削減が難しい場合は、J-クレジット購入によりCO2排出量を削減したとみなすことができ、購入を通じて森林の保全活動を応援する企業としてPR効果が期待できます。
「CO2削減がなかなか難しい」「自治体が指定するCO2排出削減義務を果たせない」という場合には、J-クレジットを活用すると良いでしょう。
ご紹介した4つの方法のほか、企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ「RE100」への参加や、持続可能な脱炭素社会実現を目指す企業グループ「JCLP」に加盟する方法もありますが、まずは取り組みやすい省エネ対策から実施しCO2を削減していくことが脱炭素への第一歩と言えるでしょう。
中小企業が脱炭素に取り組む際のポイント4つ
1:CO2排出量は見える化しましょう
脱炭素に取り組む際は、現状や実施結果を可視化することが大変重要です。
せっかくCO2排出量を削減できても、改善前と改善後が可視化できていないと取り組みの効果をステークホルダーに伝えることができず、企業の信頼獲得や好感度UPの機会が損なわれてしまうほか、競合との差別化のチャンスを逃してしまいます。
脱炭素に取り組む際は、現状のCO2排出量がどのくらいあるのか?現状を把握し、どのくらい削減できるのか?目標を定め、どのくらい削減できたのか?の数値を可視化するようにしましょう。
2:現状把握から始め、改善点を明らかにしましょう
脱炭素に取り組むには、現状の毎月のエネルギー使用量やCO2排出量を明らかにすることから始めましょう。現状を把握することで、削減目標や改善施策が設定しやすくなります。
エネルギー使用量の把握には、電力会社等からの明細が有効となっており、月別推移、前年同期との比較などを可視化することにより改善点が見つかります。
また、自らの事業所の燃料等使用量からCO2排出量への換算が可能です。
3:現状から改善点を見つけ目標設定・施策実施をしましょう
現状のCO2排出量を把握し改善点を明らかにしたら、どのくらい削減できるか?どんな対策をすべきか?など、具体的な目標や施策を検討します。
施策を検討する際は、中小企業の取組事例を参考にしたり、環境省が発行している「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を参考にすると良いでしょう。
自社での目標設定や補助金制度の申請方法が分からない場合には、CO2削減コンサルティングサービスなどの外部診断を受診するのもオススメです。
現状のCO2排出量の測定や削減目標の提案を受けることができ、より効率的にCO2排出量を削減する方法をアドバイスしてもらうことができます。
【中小企業向け】CO2削減コンサルティングサービスはこちら>
4:定期的に効果を測りましょう
施策を実施してみて、どのくらいCO2を削減できたのか?改善点はないか?など、定期的に効果を測りましょう。
一度の施策で十分なCO2削減効果を得られる場合もありますが、こまめな節電対策や省エネルギーへの切替え施策は継続的に続ける必要があります。
ステークホルダーにCO2削減の取り組みや削減効果を訴求する場合にも、定期的な効果算出が有効となります。
まとめ
今回は、脱炭素の概要や、中小企業が脱炭素に取り組むべき理由やメリット、具体的な取り組み方法、脱炭素に取り組む際のポイントをご紹介しました。
中小企業の中には、ステークホルダーや自治体から脱炭素への取り組みを実施するよう迫られ、CO2排出量を削減しなければならない方も多いかと思います。
弊社株式会社エシカライズでは中小企業向けのCO2削減お役立ちコンテンツを紹介する当サイト運営のほか、CO2排出量の測定や最適なCO2削減方法のご提案、CO2削減の進捗報告や効果測定をご案内する『CO2削減のコンサルティングサービス』を行っています。
「どうすればCO2排出量を減らせるのか方法が分からない」
「自治体や取引先からCO2排出量を削減するよう言われて困っている」
「現状どのくらいCO2を排出しているのか分からない」
「CO2排出量の可視化ってどうすればいいの?」
という方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。
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